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icon of stewpot どうしてあなたの意地悪な後輩は愛がないのに甘く囁くのか?

この記事では「搾取」の理由を設計することについて、お話しします。

貢ぎマゾとは何だったか?

2018年に搾取のススメで示したとおり、いわゆる 貢ぎマゾ は、(十分な)対価を求めずに同意の下で価値を移動させてしまう一連のコミュニケーションに興奮を覚える存在でした。これについては、2026年現在でも大まかな定義は変わりません。

この「貢ぎマゾ」というラベルは、あくまで金銭の支払いや(ほしい物リストなどを通じた)商品の購入による代替が容易な経済的価値の移動に注目したものです。この「特に金銭的授受に興奮を覚える」というイメージは、私が普段書くようなテキストのジャンルを提示するのによく役立っています。しかし、かれらが興奮するとされる 搾取 の構造をより広く説明するには、この仮定は具体的すぎると言わざるを得ません。

そのため、本記事ではより広く価値の移動に興奮を覚える存在について、よりニュートラルに「搾取マゾ」と呼ぶことにします。ここでいう価値とは、貢ぎマゾのコミュニケーションの前提となる「代替が容易な」かつ「経済的価値」に限りません。代替が難しい、そして直接的には経済的価値を生まない搾取の類型もありえます。

つまり、搾取マゾの興奮には金銭の支払いが必須ではなく、また ハニートラップ のような厳密には貢ぎマゾとは異なるジャンルとも通底する要素が存在します。ここから、一見するとマゾにメリットしかない愛情表現・誘惑・性行為ばかりの――例えば やわらかマゾ のような表象を持つ――作品に、搾取の理由を与えたり、見出せるようになるでしょう。逆に、こうした搾取には乱暴な罵倒や肉体的苦痛が必須ではないことも分かるはずです。

搾取されるべき価値とは何か?

さて、貢ぎマゾは金銭的授受に興奮を覚える存在でしたが、搾取マゾはどのような「価値」の「移動」に興奮するのでしょうか。一口に「価値」といっても、その具体的要素は様々です。

例えば、ハニートラップというのは、スパイが色仕掛けや誘惑を通じて性的な関係を結んで懐柔したり、その事実を元に脅迫して機密情報・先端技術を聞き出したり、金銭や物品を要求する手口でした。ここにおける価値とは対象が持つ情報や技術そのものであり、初めから搾取を目的に対象と接触するのが重要なポイントです。

特に創作では、最後まで対象を騙し続けるのではなく、対象の性的興奮に乗じてあからさまに要求を突き付けるストーリーも多く見かけます。例えば「射精したかったら機密情報を差し出せ」というやり方です。

こうすることで、スパイによる窃盗や詐欺といった一方的な工作による価値移動ではなく、「ごく個人的で刹那的な快楽」のために「自分や周囲に大きな不利益を生む行為」を自発的に行うという、ある種の同意の下での価値移動の構造を作り出せます。このようなケースでは、貢ぎマゾと同様の搾取構造を持っていると言えるでしょう。

別の例として、生徒が教師を誘惑して成績を操作させる作品が存在します。学校という環境においては、宿題の未提出を不問にする、定期テストの成績を不正に上げる、推薦入試の権利を優先的に得るなど、必ずしも金銭的授受を伴わない価値の移動がありふれています。これらもハニートラップと同様に、単に色目を使って評価を甘くさせるのではなく、快楽と引き換えに不正な成績への書き換えを迫ることで、搾取の構造に転換できます。

これらの構造を考える上で重要なのが、搾取マゾが差し出す「価値」は相手が評価するものだ、ということです。仮に搾取マゾ自身が大きな価値があると信じているものでも、相手が必要としていなければ搾取にはなりえません。また、その関係の外でも使える価値を持っているべきです。搾取マゾが移動した価値を、かれとは全く関係のない場所で利用する対比が「搾取」の意味を強めます。

利用価値のない情報、ありふれた技術、思い入れのある所持品、ちっぽけなプライド、射精の権利……など。弱みを握ったり心を折ったりして搾取の下地を整える効果はあるにせよ、それ自体を価値移動の源泉として扱う作品は、実際には「搾取」たりえないのです。

まさにこの境界線上の事例として、「貨幣経済に興味のないエルフに人間界の貨幣を貢ぐ」というシーンを考えることができます。人間にとっては明らかに重要なお金でも、そこに一切の経済的価値を感じないエルフに渡すのは搾取たりうるでしょうか? 数字の書かれた紙切れを土下座で差し出されても、おそらくエルフは何の喜びも感じません。

もちろん、紙幣や硬貨の緻密なデザインに興味を持つという設定を書き加えてつじつまを合わせることもできますが、まさにこれは「価値は相手が評価する」原理そのものです。

つまり搾取マゾとは、相手からの性的な働きかけを伴う要求に応じて、自分に不利益を生むかたちで自ら価値を差し出してしまうことに興奮するのだ、と定義できます。さらにその興奮を高めるのが、差し出した価値がその関係の外で利用されるという非対称性なのです。

搾取されやすい価値とは何か?

ここまで例示したとおり、搾取マゾは広く「価値」の「移動」に興奮する存在です。物語の中では、秘密基地の場所や軍事技術を漏らすよう誘惑されたり、射精と引き換えに満点の答案を量産したり昇給を約束する搾取マゾも、現実ではなかなか実現できないものです。そもそも標的にされるほど重要な情報や技術を持っていない、成績や人事を操作できる職権のない凡人の搾取マゾがほとんどであり、かれらが搾取の天秤に差し出せる価値はそう多くありません。

この点において「貢ぎマゾ」は、他の搾取マゾの類型に比べて非常に有利です。お金は現代社会を生きる人間にとって重要なものであり、全員が差し出せる価値であるとともに、全員が求めている価値でもあります。入手方法が整備されていて、情報漏洩や不正行為に手を染める必要もなく、数字と価値がよく連動して分かりやすい。これは貨幣が持つ性質そのものです。

ただし、こうした価値移動の手軽さはデメリットの裏返しでもあり、「搾取のススメ」で示したように単なる市場経済的な価値の交換と地続きになっています。値段表を提示した写真や動画の販売や性的関係の提供は価値の「交換」であり、「搾取」たりえない点には注意しなければいけません。搾取のための条件付けや価値を移動させる設計もなく、単に金銭に執着する貢がせアカウントなども、 惨めな物乞い 的性質を隠せない点で「搾取」たりえないのです。

さらに「価値は相手が評価する」ことに注目すると、「全員が差し出せる価値」はさらに広がります。いわゆるサキュバスが登場する作品はその代表的な例と言えるでしょう。サキュバスは多くの男性が差し出せる「精液」それ自体に魔力的な価値を見出し、価値の移動と射精を直接結び付けます。サキュバスとは、本来は搾取される価値たりえない「射精の権利」を、魔力という価値の移動に変換する舞台装置なのです。

サキュバスが射精に価値を設定すると、文字通り射精そのものを価値の移動として描写できるようになります。射精への期待を高めたり射精許可を得るための搾取ではなく、射精の瞬間をトリガーにした搾取として表現できるのです。よりファンタジーな世界観なら、そこに経験値や魔法を奪うといった描写を加えることさえ可能です。

このサキュバス的な搾取の性質を、「射精すると寿命を削って数百万円相当のダイヤモンドを生み出す特殊体質」として表現した「アダマスの魔女たち」は、凡庸な男子高校生を搾取の天秤に引きずり出す特異なマンガと言えるでしょう。

また、いわゆるA国B国モノにおける――敵国の異性に懐柔され自国を裏切る――売国マゾも、搾取マゾの一種と考えることができます。これは「自国への忠誠心を捨てて敵国に寝返る」という、自分にとっては害があり、相手にとっては価値のある行為に導かれる複合的な搾取です。経済的価値ではなく民族的・国家的な優越や帰属に関わる価値を重視しており、搾取の成立は相手がどのように価値を定義するかにかかっている、という点もよく示しています。

つまり、多くの搾取マゾに刺さるシチュエーションは「相手が求める価値」であり、「その関係の外でも使える価値」であるという理由付けが十分になされた「自分が差し出せる価値」である、と言えるでしょう。

なぜ愛がないのに甘く囁くのか?

さて――意地悪な後輩にマゾバレして、二人きりの部室でお金を差し出す関係になってしまいました。彼女は私の財布が空になるまで寸止めを繰り返して、気まぐれで射精を許可してくれます。彼女は私に好意がないはずなのに、射精に追い込む時だけ耳元で甘く愛を囁いてくるのです。彼女の声に合わせて精液が込み上げてくる瞬間が忘れられずに、今では休日までバイト漬けの日々を送っています――

これらの具体的事例から分析すると、冒頭の「なぜ愛がないのに甘く囁くのか?」という問いには「あなたから搾取できる価値に興味があるから」と答えることができます。これは個人的な金銭的搾取だけではなく、テストの成績を低下させたり、大事な試合の集中力を削いだり、部費を増額させるといった様々な価値の移動がありうることは、前に述べたとおりです。

さらに、あなたが自発的に差し出す価値を最大化するために愛を利用している点にも注目しなければいけません。あなたにわざわざ「甘く囁く」のは愛があるからではなく、そうすると価値を搾取しやすいからです。代替可能な搾取の対象として蔑まれながら、搾取に適した存在としては尊重される。その限定的な承認を愛情と錯覚することで、あなたは「愛がないのに甘く囁かれている」という矛盾を、矛盾のまま受け入れてしまいます。

逆に言えば、このような「あなたから搾取できる価値」を具体的に挙げられないのなら、それはただの 「あまあまやわらかマゾ作品」なのかもしれません。もしそうなら、彼女はただあなたのことが好きなだけでしょう。差し出したお金も結婚資金として貯められているだけ……なんて、いかにも やわらかな 種明かしが待っていそうです。

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