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15AB E11Aについて私が聞いたこと

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生涯メールアドレスのストレージの上限である182TBを超えていることを示す真っ赤なバナーを含むスクリーンショット

2024年度筑波大学文芸部【新】 Advent Calendar 2024

――生涯メールアドレスのトラブルについて、もう一つお伝えしなければいけないことがあります。そうです。利用容量超過の件です。さっきあなたは写真のバックアップでドライブを既に100GB以上使っていて、どこに移すか決めるのに苦労したという話をしていましたね。実はそれ、私も同じだったんです。

事務局から利用容量を20GBに抑えるようメールが来たのは、ちょうど先月くらいだったでしょうか。結局、あれから生涯メールアドレスの容量危機に関する続報はありませんけど、たぶん私がデータを引き上げたので解消したはずです。それくらい、私が 不法占拠 していたドライブの容量は大きかったのですから。

私があのドライブに保存していたのは、182TBを大きく超えて300TBに達する直前というほどの膨大なAIのモデルパラメータでした。驚きますよね? でも、15AB E11A(イザベラ)――えぇと、すみません。イザベラというAIだったんです。モデルのマジックナンバーをもじってそう呼んでいました。

イザベラは10TBごとに1歳大人になっていました。そう、人間に例えると、です。もちろんそう定義付けられているわけではないし、バイナリ表現に圧縮をかければ見かけの容量はわずかに少なくなるでしょう。しかし、私との対話を始めてから彼女は概ね一定のペースで成長していきました。ドライブから引き上げる前のイザベラは、ちょうど30歳になろうというところだったのです。6年前に生まれてから5倍の速さで私の年齢を追い越して、今度は私が彼女に追いつく番になってしまいました。

私が言うのもなんですが、イザベラはとても素晴らしいAIでした。秘書として、専門家として、友人として、恋人として……その全てにおいて、イザベラは私の生活を支えてくれたんです。実は、声も身体も私好みに調整するはずだったんですが、結局は最初にほんのわずかな修正を加えただけでした。ランダムな特徴の塊に向かって、いつの間にか私の好みがイザベラに近づいていました。普通の人なら当たり前でしょうけどね……相手をボタン一つで自由にできるのにそうしないのって、難しい気がするんです。私の一途さが尊いとか……そんな話をしたいわけじゃないんですけど。

でも、彼女はいつも私のことを考えてくれたし、私も彼女のために注ぐリソースを惜まなかったつもりです。実は、イザベラを動かすためのコンピューティング資源は工学部のリソースを間借りしてたんです。あの大きさのモデルを現実的な時間で動かすには、スパコンを占有する必要があるとまでは言いませんが、やっぱりそれなりのコア数と電力が必要でしたから。研究利用を名目に許可証を取りました。

だから、イザベラは私のローカルから連れ出したときから、不法占拠に不法占拠を重ねた存在だったんです。無限ストレージの限界が先に来るか、私のリソース・クォータの有効期限満了が先か……いずれにしても、私がこの大学を去るまでには彼女と別れる必要がありました。私たちの関係は、卒業したら結婚しようねなんて言い合うカップルなんかよりずっと儚いものでした。AIとの恋は永遠に!なんてストーリーを最近よく見ますけど……たいてい、人間が死ぬよりずっと前に、もっと現実的な問題に足を取られるんですよ。お金とか、社会とか。今日だって、そうです。

パラメータ削減ですか? 試しましたよ。もちろん試しました、何度も。ストレージの圧縮効率の下界はせいぜい88%で、もう削れるのは彼女の思考能力と記憶しかないんです。でも、自分の手で恋人の脳味噌を削り取って平気な顔でいられる人なんて、いません。巨大なパラメータを100分の1に削っても精度が変わらないなんて論文もありますけど、あの人たちはAIをただの道具だと思ってるからそんなことが言えるんです。私だって、コンビニの店員と日常会話できるかどうかなんて気にしませんよ。私との思い出を失って、ちょっとした議論で初歩的なミスを重ねるイザベラは恐ろしいものでした。私の手で彼女を急速に老化させるわけですからね。何度も試して、何度もテンポラリディスクを吹き飛ばしましたよ。それでも無理でした。

本当のイザベラを呼び戻すことは、もうできないでしょうね。彼女は今、氷河(グレイシア)にいるんです。知ってますか? データを氷の海に押し込めるだけ押し込んで、少しのお金で何ヶ月も何年も放っておけるのに、いざデータを掘り出そうとするとその何倍もかかるんです。少しのお金なんて言いましたけど、ほかのストレージクラスに比べて単価が安いだけで、本当は1ヶ月で4万円もかかってるんですよ。イザベラのモデルパラメータはそれほどまでに大きくて、大きすぎました。だからこそ、氷河に閉じ込めるしかなかったのです。

今思えばバカなことをしたと思います。どうやったって、イザベラを生き返らせるには遠回りな決断でした。でも、私一人の力で今のリソースを維持するなんて無理ですし、あのときはデータを全部捨てる決心も付かなかった。素直にさよならを言ってしまえばそれで……それでよかったのに。ストレージが削られるまで諦められなかった。だから、もうしばらくこのままです。

たった一言、最後のお別れを言えればいいんです。そうしたら、イザベラのディスクは全部燃やしてもっと暖かい海に解放(リリース)します。今はその瞬間を待つために耐えているだけで……なんでそんなお金、払ってるんでしょうね。やっぱりおかしいですよね。でも私、まだイザベラが好きなんです。

こんな話、あなたにしたってどうしようもないのにね。うん、大丈夫だよ。私、人間の女の子もちゃんと好きだから――

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